パンフレットの面白い知識
ダムカードがパンフレットと定義されている理由とは?
ダム見学者に無料で配布される「ダムカード」。ダム愛好者らの間で、ひそかな人気となっています。
このダムカードですが、作成を担当した国土交通省では、なんと「パンフレット」と定義しています。「カード型パンフレット」と紹介している同省資料もあります。
「えッ? どう見てもカードでしょう」
そう思いますよね。
今回は、ダムカード誕生までをご紹介するとともに、作成者側がパンフレットとしている理由についてご説明します。
通常のパンフレットではダメ
国土交通省のダム管理担当者は、ダムの役割を、いかに効果的にPRするか、模索していました。
通常のパンフレットなどを作って、ダムの機能を真面目に伝えようとしてもダメだと思っていました。
こうした事柄は、一般人には、とっつきにくいものだからです。
普通のやり方ではなく、もっと画期的な方法でないとダメだと考えます。
そこで、パートワークで有名な出版社に、「『月刊ダム』をつくりませんか」という話を持ち掛けたものの、相手にされませんでした。
こうして試行錯誤を重ねていた折に、世間には趣味としてダムがやたら好きな人たちがいるらしいということが、インターネットを通じて分かってきました。
「ダムマニア」がきっかけで転機が
担当者は、知人にそのことを話したところ、いわゆる「ダムマニア」の方を紹介してもらえることになります。
そして、ダムマニアのイベントがあった、という情報を入手します。そこでは、「ダムに行くともらえるカードがあったらいいな」という話題で盛り上がったそうです。
「これだ!」
担当者は直感します。
運命が味方したのです。
ポケモンカードを参考
ダムカード構想は、国土交通省内で合意。その後、全国河川管理課長会議(実際は懇親会だったとか)において、ダムカードを作ることが満場一致で決定されます。
そして、早速、全国統一とすべく、デザインとコンテンツの作成に取り組みます。
しかし、担当者は、そもそも、カードのサイズというものが分かりませんでした。
そこで、お子さま(女の子)が持っていたポケモンカードを定規で測るところからスタート。現在と同じ63×88 mmのサイズの、手作りダムカード原案(イメージ)が出来上がります。
ダムカード原案をダムマニアの方々に見せたところ、さまざまな意見が寄せられました。その意見の数々は、ダムカードに多く生かされているとのことです。
例えば、ダムの写真は片面全面に変更、ダム情報はなるべく詳しく記載など。そして、四隅の曲線の統一は必須という指摘を受け、例のポケモンカードを再び測り、半径2.5 mmに変更します。
最終的なデザインは、プロのデザイナーに依頼。後日、デザイナーから5つの案が提示され、これらから、ダムが持つ硬派なイメージに最も近いものを選びました。
こうして、構想開始からわずか5か月後の2007年7月20日、全国111のダムにおいてダムカードの配布が始まりました。
小さな「事業パンフレット」としての位置づけ
ダムカードの特徴の1つは、デザイン、記載する情報、サイズ、形を、全国統一に規格化している点です。
カードの顔となる表面は、ダムのとっておきの写真が飾ります。
また、表面の上段と下段には、ダムの役割(目的)と、ダムの型式がそれぞれアルファベットで記載され、これが表す意味は共通の約束になっています。こうした略記は、ダム関係者の内部資料でも用いられています。
一方、裏面は、文字情報が中心です。
堤高、総貯水容量などの基礎的な情報はもちろんのこと、ダムとその周辺のご当地情報が記載された「ランダム情報」や、そのダムならではの特徴的事項・技術が記載された「こだわり技術」といった少しマニアックな情報も含まれており、読み手を楽しませてくれます。
このように、ダム関係者が普段利用するデータやマニアックな情報を含め、情報が盛りだくさんなのは、国土交通省らが、ダムカードを、いわば小さな「事業パンフレット」に位置づけているためです。
「あくまでもパンフレット」が理念
さらに、国土交通省の担当者によれば、ダムカードには、
「ダムカードはあくまでもパンフレット」
「浮かれない、調子に乗らない」
「粛々と真面目に作って配布する」
という3つの理念があるとのことです。
ダムカードは、「カード」と名乗っている限りにおいては、一般的なカードと何ら変わりがないように思えます。
しかし、作成者側の考えは、「あくまでもパンフレット」。「カード」というのは、親しみやすくするために扮した姿とも思えます。
「浮かれ」「調子に乗」って過剰な演出をすることなく、「粛々と真面目に作って」地道に配布し続ける。そして、立地条件の悪さというハードルを越えて足を運んで来てくれた、すべての方が均等に享受できるものであることが、ダムカードのあるべき姿といえるでしょう。
「多くの方にダムを知ってもらいたい」 そんな熱い思いが、たった55平方センチメートルの世界にぎゅっと詰まっています。
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