バリアフリーパンフレット

凹凸が付いて誰でも識別可能。触って分かるパンフレットが登場

以前、このコラムでは、越前和紙を使ったパンフレットについてご紹介しました(URL: https://100pamphlet.jp/lab/lab-print/2974/)。その記事を読まれて、世の中には、まだまだ、いろんなパンフレットがあるものだなと思われた方もおられるかもしれません。

今度は、「触って分かるパンフレット」なるものが登場したそうです。公益財団法人 共用品推進機構が、このたび、凸凹が付き、目の不自由な人も触って分かるパンフレットを作成しました。表紙には、どういうわけか、かしわ餅が2つ並んでいます。

この「触って分かるパンフレット」とは、一体どのようなものなのでしょうか? 今回のコラムで詳しくご紹介していきます。

きっかけはかしわ餅

触って分かる、という工夫は、どうやら江戸時代にもあったようなのです。

江戸時代後期の江戸、大坂、京都の庶民の風俗をまとめた「守貞謾(漫)稿(もりさだまんこう)」によれば、かしわ餅に関して、小豆あんを入れて作るが、江戸には味噌あんもある。
中身を区別するため、江戸では、小豆あんの場合は葉の表(葉の表側がくるように巻き)、味噌あんは裏で包む(葉の裏側がくるように巻く)、とあります。
味噌あんと小豆あんを、葉の表か裏かで区別するようにしていたのですね。現在でも、このような区別によってあんの違いを分かるようにしているかしわ餅も見られ、江戸時代の工夫が生かされているとも考えられます。

共用品推進機構によると、数年前、目の不自由な人にかしわ餅を触ってもらったところ、「葉の表裏が触って分かる」という答えが返ってきたそうです。
目で葉の裏表の違いを見て中身を区別することができるだけでなく、目の不自由な人も、触って区別することができたのです。
また、江戸時代のかしわ餅のことを、講演会などで話題にすると、聴衆からの反応も良かったそうです。

そこで、同機構は、2017年、葉の表裏が異なる小豆あん(こしあん)と味噌あんのかしわ餅を表紙にし、観音開きになった扉を開けると多くの共用品(※)が紹介されたパンフレットをイベント用に作成しました。
すると、展示会などで、来場者から「これは、何のパンフレットですか?」など、高い関心が寄せられたそうです。
そして、東京・神保町の和菓子店などにもパンフレットを置いてもらうと、関心の輪が更に広がりました。

※「共用品」とは、障害のあるなし、年齢の高低、言語の違いなどに関わらず、共に使える製品をいいます。
共用品推進機構のパンフレットには、リンスの容器と区別するために、触って分かるギザギザや縦のラインが付いたシャンプーの容器、操作ボタンを押すと、「給湯を始めます」「お風呂が沸きました」など、音声で伝えてくれる給湯器、字幕の出るテレビ、ノンステップバスなどが紹介されています。
なお、2018年1月に発行された広辞苑第7版にも、共用品が「障害の有無や身体特性に関わりなく、誰もが利用しやすい製品」という語釈で新たに掲載されました。
共用品の詳細に関しては、共用品推進機構の公式ホームページ(URL: http://www.kyoyohin.org/)をご参照ください。

凹凸の付いた印刷には試行錯誤

パンフレットは、全国の盲学校への配布も決まりました。しかし、凹凸のない印刷物だったため、触っても、かしわ餅の葉の表裏が識別できません。そうしたある日、同機構の担当者は、印刷会社の知人から、凹凸印刷ができる機械を購入したという話を聞き、パンフレット表紙のかしわ餅と文字を触って分かるようにできないか相談したそうです。

印刷会社は、「とにかくやってみましょう」ということで、試行錯誤を重ねました。
まず、オフセット印刷によって、かしわ餅の写真や平面の文字をカラーで印刷。その後、厚盛りデジタル印刷によって、かしわ餅の葉の表裏を触って分かる図とともに、点字を印刷していきました。厚盛りデジタル印刷に、透明な色を使用したため、ベースのオフセットによるカラー印刷を損なわずに、1枚の紙に、カラー・触図・点字の3つの印刷が共存できたのでした。

使用した印刷機は、輸入したもの。厚盛りの高さの調整機能はありましたが、日本工業規格(JIS)において示されている点字や触図の数値にすることはできず、付属のマニュアルにはない調整を繰り返したそうです。

また、触って分かるかどうかについては、社会福祉法人 日本盲人会連合の担当者に、試作品を何度も実際に触ってもらい、アドバイスを参考にしてデザインに改良を加えました。

こうして、多くの方々の協力を仰ぎ、触って分かるパンフレットは完成しました。

いかがでしたか?
今回は、「触って分かるパンフレット」についてご紹介しました。
パンフレットには、文字や写真・画像を見せる(読ませる)だけでなく、触って分かる、確かめることができる、という機能も搭載できることが分かりました。このような機能が加わることで、紙のパンフレットとしての魅力が更に増していくのではないでしょうか。

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