パンフレットの効果・役割
医療現場でパンフレットが効果を発揮 ~投球障害パンフレット配布の事例から~
パンフレットは、医療現場において病気の治療に一役買っています。
これまでの報告例によると、パンフレットを患者に配布することによって、患者の病気に対する理解や認識が高まることが分かっています。
今回は、近年の調査報告から、ある病院によるパンフレット配布の試みについて、ご紹介します。
通院をやめてしまう患者を減らすためにパンフレットを作成
スポーツ外来の分野で実績を有する、ある整形外科病院(以下、「A病院」といいます。)には、肩や肘を痛めた野球少年たちが多く来院します。
野球選手が肩や肘を痛める主な原因としては、
・コンディショニング不良(筋力低下、柔軟性低下、バランス低下など)
・投げすぎ(over use)
・投球フォーム不良(肘下がり、手投げなど)
が挙げられます。
痛めた肩や肘を治したい場合は、通常、整形外科やスポーツ外来などが設けられた病院で診察を受けることになります。
しかし、野球部やリトルリーグなどでプレーをしている球児は、チームに迷惑を掛けることや、チームメートにポジションを奪われることなどを懸念して、治療途中で通院しなくなることも少なくありません。A病院が事前に調査したところ、約30%の患者が治療途中で通院をやめてしまうことが分かりました。
もし、完治しないままチームに復帰し、痛みを我慢して試合をしても、満足のいくプレーができるわけもなく、チームに貢献するどころか迷惑を掛けてしまいます。
こうしたことから、A病院では、通院をやめてしまう投球障害肩・肘患者を減らすために、パンフレットを作成し、患者に配布することにしました。
パンフレットの内容
A病院が作成した投球障害のパンフレットの内容は、次のようなものです。
・投球障害肩・肘の概要
・A病院のリハビリの流れ
・メディカルチェックの内容
・患者からの質問とその回答
・自主練習の指導内容
パンフレットでは、写真、イラスト・図や、カラー表示を多用し、視覚的にも分かりやすく説明されています。
パンフレットの効果を検証するため調査を実施
A病院では、パンフレットによる効果を検証するため、パンフレット配布後の、病院に診察に来なくなった患者の割合の変化と、投球障害肩・肘に対する患者の理解度を調査しました。
ご参考のために、調査の対象と方法を以下に示します。
(参考)
<調査対象>
A病院のスポーツ外来において投球障害肩・肘と診断され、投球禁止を受け入れ、リハビリを実施した患者を対象とし、
パンフレットを配布していないグループ30名(平均年齢13.6±3.0歳。以下、「対照グループ」といいます。)と、
パンフレットを配布したグループ34名(平均年齢14.0±2.9歳。以下、「配布グループ」といいます。)
の2つのグループに分けて調査を実施しました。
<来院しなくなった患者の割合の調査方法>
上述した2つのグループにおいて、A病院に診察に来なくなった患者の割合を調査しました。
A病院では、
初診で投球ができる身体の状態ではないと判断された患者のうち、投球禁止の指示を受け入れたが投球を許可されるまでの投球禁止期間中に来院しなくなった患者を「ドロップアウト」、そして、
再診で投球が許可され、フルスロー獲得までの段階的投球増強期間中に来院しなくなった患者を「フェードアウト」と定義しています。
調査では、来院しなくなった患者の割合を、「ドロップアウト率」と「フェードアウト率」として算出しました。
<病気に関する患者の理解度の調査方法>
また、ある期間に通院した患者22名(平均年齢14.9±4.6歳)を対象に、パンフレット配布後の投球障害肩・肘に対する理解度をアンケート調査しました。
アンケートの内容は、
(1) 自分(患者)がけがをした理由は何か
(2) コンディショニング不良とは何か
(3) 投げすぎとは何か
(4) 投球フォーム不良とは何か
の4項目。
これらの項目に対して、0~10の11段階で、0を「全く理解できていない」、10を「理解できている」とし、理解度を点数化しました。それぞれの項目の満点を10点としました。
パンフレットを患者に配布した結果、来院しなくなった患者の割合と、病気に関する理解度は、どのように変化したのでしょうか?
パンフレットを配布したところ、来院しなくなった患者の割合が減少
ドロップアウト率とフェードアウト率は、対照グループが33%(30名中10名)であったのに対して、配布グループは24%(34名中8名)と減少しました。
また、小・中・高・大学生の年代別で比較したところ、すべての年代で減少しました。
パンフレットで、患者の病気に対する理解度がアップ
パンフレット配布後のアンケート調査による投球障害肩・肘に対する理解度は、10点満点中平均8.7点と、高いスコアを示しました。
また、すべての項目で、理解度が高いことが分かりました。
パンフレットは医療現場でも有効
調査では、パンフレットの配布によって、患者の、投球障害肩・肘といった病気の理解や、コンディション調整に関する意識向上につながり、年代を問わず、ドロップアウト率とフェードアウト率が減少したと考えられました。
今回ご紹介した事例のほかにも、医療現場におけるパンフレットの有用性については、数々報告されています。
例えば、通院中の糖尿病患者に、診察時に血糖コントロールの指標について説明したパンフレットを配布し、医師から簡単な説明を加えたところ、パンフレット配布前と比べて、その理解度が高まった、という報告があります。
医療現場でのパンフレット配布のメリットには、医師から指導を受けた後などに、患者自身が何度も見直すなど、再学習することが可能なことと、図や絵、写真を見ながら説明が可能なことがあります。
今回の事例でも、パンフレットを配布することにより、患者の病状の把握、自己認識力の向上、後に行われるリハビリなどの流れの把握につながったと考えられます。
このようなことから、医療現場では、パンフレットを使用し、医師が口頭で説明を十分に行うことによって、患者は、自分の罹患(りかん)している病気について理解を深め、己の状況について正しく知ることができると考えられます。そうすることで、病気の不安の軽減とともに、治療への意欲向上にもつながると考えられます。
パンフレットは、医療現場において、治療活動の一部としての役割を果たしているといっても過言ではありません。
パンフレットには、さまざまな可能性があり、今後も更に活躍の場を広げてくれることが期待されます。
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